2017年10月、映画「彼女がその名を知らない鳥たち」のプロモーションで、白石和彌監督が福岡を訪問されました。

本記事は、白石和彌監督にインタビューしたレポート記事です。

撮影・取材・文:出口敏行
記事公開日:2017年10月27日
本記事では、以下の内容について記載しております。

目次
■映画「彼女がその名を知らない鳥たち」とは
■白石和彌監督へのインタビュー
■映画情報・公式WEBサイト

以下、詳細です。

■映画「彼女がその名を知らない鳥たち」とは

映画「彼女がその名を知らない鳥たち」は、沼田まほかるさんの同名のミステリー小説を、映画「凶悪」「日本で一番悪い奴ら」の白石和彌監督が映画化した大人のラブストーリーで、キャッチコピーは「共感度0%、不快度100% でもこれは、まぎれもない愛の物語 」。
蒼井優さん、阿部サダヲさん、松坂桃李さん、竹野内豊さんなどが出演されています。



■白石和彌監督へのインタビュー

福岡市内で白石監督にインタビューさせていただきました。
映画と小説の内容に少し踏み込んだお話を聞かせていただきましたので、そちらを先にご覧になると、さらに楽しんでいただけると思います。


ーー原作との出会いについて。

白石和彌監督:幻冬社に高校の先輩がいらっしゃって、可愛がっていただいているのですが、食事をしたときに「映画化したいんだけど、どれか興味ある?」と5~6 冊の本を渡されまして、その中に「彼女がその名を知らない鳥たち」がありました。僕はこれまで男の世界の実録モノを撮らせていただいてましたが、いつか愛の話を撮ってみたいと思っていて、ただ、僕の場合はふつうの恋愛モノではないから、題材との出会いだなと思っていたのですが、こんなに早くその題材と出会えるとは思っていませんでした。

ーー鮮烈な純愛ラブストーリーでした。原作と構成を変えられていましたね。

白石和彌監督:原作は十和子目線で書いてるから、十和子の愚痴を聞かされている訳で、本当にバカで嫌な感じに陣治が描かれているのですが、本のラストを読んで真相がわかったときに、それらのシーンは愛のシーンに変わります。汚いものが愛おしく感じられる本だなと思いました。ただ、映画では同じ構成ではそのことが伝えられないので、表現を変えました。もし陣治と十和子の生活が、美しいものだったとしたら、この方がいいだろうなと。陣治の愛は究極の愛というか、言語化できない愛だと思います。この映画の結末を知った上で2回目を観ると、最初のシーンで泣く人がいます。陣治のラストの「楽しかった」というセリフは、いつ壊れるかわからない毎日を暮らしていたからです。その感じを伝えたかったです。


ーーキャスティングについて。

白石和彌監督:僕はキャスティングするときにその人のそのままのイメージではしないというか、ちょっと違うことを演っていただくようにしているんです。「またいつものこういう風な役か」と思われるより、「あれ、変な役が来た」と思われる方が、ぜったい気合い入って、面白がって、やってくれると思うんですよね。そういう意味では、蒼井優さん、阿部サダヲさん、松坂桃李さん、竹野内豊さんの4人は見事にちょっとずつ違って、生き生きと面白いことを演じてくださいました。キャスティングって、演出的な部分も含まれてくるんですよね。

ーー蒼井優さんについて。

白石和彌監督:原作を読み終わったときに、十和子役に最初に思い浮かんだのが優ちゃんでした。優ちゃんは十和子と年齢が近く、これまで演じたことがない十和子のような女性を演じたら、より輝くのではないかと。脚本作っていくにしたがって確信に変わり、ハードなシーンもあるので、ダメもとでオファーしてみたら、やっていただけることになりました。優ちゃんは、「どこまで嫌われていいんでしょうか?」って言ってました(笑)。「言い訳のできない嫌な女ですよね」と(笑)。ハードなシーンも平常心でやってくれまして、表情の作り方に感心しました。核心の重要なシーンの表情には予感や決意も感じられて、さらに殺意とも慈愛とも解釈できます。ラストの顔もそう。陣治の愛を目の当たりにして、悲しみや喜び、いくつもの表情が見て取れました。


ーー阿部サダヲさんについて。

白石和彌監督:阿部さんの不潔感、すごかったですよね。清潔感がある阿部さんがどこまで陣治に近づけるのかと不安がありましたが、阿部さんもこういう汚れた役をやってみたかったとのことで、徹底的に汚い陣治になってくださいました。現場の女子スタッフに「どう?いっしょに暮らせる?」って聞いたら、「暮らせません」って(笑)。

ーー松坂桃李さんについて。

白石和彌監督:この役、桃李くんじゃなかったら、どうなっていただろうと思います。こういう役は桃李くんも演じたことがなかったでしょうが、本当に嫌な男を演じてくださいました。


ーー竹野内豊さんについて。

白石和彌監督:竹野内さん、こんな暴力ふるったりとかのひどい役、20数年のキャリアで1度もないんですよ。それを会ってお話ししたら引き受けてくださって、あんなにイキイキと、最高に最低な男を演じてくださいました。


ーー国枝役の中嶋しゅうさんについて。映画では原作にないオリジナルのシーンもありました。

白石和彌監督:国枝もひどい役でした。本では国枝は過去にしか出てこないのですが、僕のオリジナルで現在のシーンを増やしました。この話は過去と現在の話なので、できるだけ現在にも過去の面影というか残り香を残した方が、十和子のキャラクターを表す上でも、ミステリーとしても、1本にしやすいと思いました。先日お亡くなりになった中嶋しゅうさんがエネルギッシュなギラギラした感じで演じてくださいました。しゅうさん、試写を観ることができなかったそうで、告別式でパンフレットとチラシを棺に入れてきました。公開されたら、きっと観てくれると思います。

ーー大阪での撮影について。淡路商店街で撮影されたそうですね。

白石和彌監督:原作が関西弁で大阪が舞台なのですが、大阪こそがこの映画のもうひとつの主役というのがありました。大阪で撮影できなかったら、監督を降りようと思っていたくらい、大切な部分でした。この作品は、陣治と十和子が大阪の片隅で、時間を止めて暮らしています。なので、抑圧された環境の中で撮影をすることが大切だと思いました。そのおかげで、とてもいい空気感が出たと思います。


ーータイトル「彼女がその名を知らない鳥たち」の意味について。

白石和彌監督:タイトルについては原作でも触れられていないのですが、僕は陣治と十和子のふたりが鳥かごの中で暮らしていると思っていました。どこにも行けないふたり。彼女は十和子のことであり、鳥は愛なんだろうなあと。ラストシーンは陣治の愛情と思い、たくさんの愛を表現しました。

ーー男性と女性、どちらに語り掛けたい作品ですか?

白石和彌監督:僕個人は陣治に思い入れをしていました。陣治が最後に提示するものが愛だとしたら、真似できないと思いました。あれだけ一途に愛することを見せられて、僕のヒーローだったんですよね。これはヒーロー映画のような気もしていて。この映画を観て、「いい映画でしたー!」と僕にハグしてくる人は男性が多いです(笑)

ーー沼田まほかるさんについて。

白石和彌監督:映画を見ていただけて、コメントをいただくことができました。喜んでいただけたようで、よかったです。日本映画は原作全盛期ですが、僕は原作に惚れ込んで、原作といい関係で再現できました。僕の作家性がどうのこうのはなく、仏像を彫る仏師が言った、「私たちは木くずを払っているだけ。木の中にいる仏を出しているだけなんです」という感覚で映画を作っていきました。

ーー初めてのラブストーリーを制作されて、ご自身の変化はありましたか?

白石和彌監督:最初の「凶悪」が評判がよく、その方向を求められていましたが、僕自身はラブストーリーもクライムもホラーもなんだって観ています。クライムムービーと一線を画したい気持ちもあり、あえて初めての役者さんたちとお仕事して、共演者のみなさんもそれぞれが初共演だったりしました。今回、こういうこともできるという自信になったし、女性も撮れるということを優ちゃんが体現してくれました。あらたな代表作として、「凶悪」と同じような孝行息子になってくれると思います。この映画がこれから僕にどういう出会いをもたらせてくれるかも楽しみです。

ーーこの映画のキャッチコピーは「共感度0%」ですが、私には「共感度100%」でした(笑)

白石和彌監督:ありがとうございます(笑)


映画「彼女がその名を知らない鳥たち」は2017年10月28日(土)より全国ロードショーです。
ぜひ、劇場に足を運んでみてください。

映画「彼女がその名を知らない鳥たち」
2017年10月28日(土)よりT・ジョイ博多ほかで全国ロードショー
出演:蒼井優、阿部サダヲ、松坂桃李、村川絵梨、赤堀雅秋、赤澤ムック、中嶋しゅう、竹野内豊ほか
監督:白石和彌
原作:沼田まほかる「彼女がその名を知らない鳥たち」(幻冬舎文庫)
配給:クロックワークス
2017年【R15】
2017映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会

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